会社員や公務員であれば毎年行う年末調整。
その中でも、生命保険料控除申請は大体の方が行ったことがあると思います。
しかし、節税の仕組みや注意点までは意外と知らないのではないでしょうか?
今回は、年末調整とは何か、という基本的なところから、生命保険料控除申請の計算方法まで解説します。
目次
1.年末調整とは?
年末調整とは、給与所得における所得税を元に、納税額を調整する作業です。 一年間(1月~12月)に収めるべき所得税と、毎月のお給料やボーナスから控除した所得税額を比較して、過不足を調整することを指します。 一年間の所得が確定した時点で所得税を割り出し、源泉徴収済税額との差額を12月の給与で調整(徴収もしくは還付)します。
1-1.年末調整が必要な人とは?
会社員や公務員など、会社に勤めている人が対象です。
12月に行いますので、会社に1年を通じて勤務している人や、年度途中で就職して年末まで勤務している人は、基本的に全員行います。
しかし、下記いずれかに該当する方は会社に勤めていても年末調整の対象にならないので注意しましょう。
- 1年間の給与所得が2,000万円を超える人
- 災害減免法の適用を受け、1年間の給与に関する所得税や復興特別所得税の納税猶予もしくは還付がある場合
くわしくは国税庁のウェブサイトや勤務先に確認をしてくだい。
出典:国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2665.htm
1-2.確定申告と年末調整はどう違う?
年末調整は、1ヶ所の勤務先からの給与を元に所得税額を計算する手続です。
つまり、1ヶ所からしか給与所得がない場合は、年末調整だけで所得税額が確定します。
一方、確定申告は、給与所得の他に事業所得や不動産所得など、全ての所得に対して所得税額を計算します。
つまり、給与所得以外で収入を得ている場合は申告・納税義務があるということになり、確定申告が必要になります。
確定申告は、1年間(1/1~12/31)の所得を自分で計算し、翌年3月15日までに申告します。
1-3.年末調整の注意点
会社員であるにも関わらず、年末調整では精算できない支出があります。 会社側では手続きできないため、該当する項目がある場合は自分で確定申告を行いましょう。 確定申告をすることによって還付がある(税金が返ってくる)場合があります。
・医療費控除
病気やケガなどで、支払った年間医療費が一定の金額を超えた場合、所定の手続きをすることで税金が戻ってくる制度です。
・初年度の住宅ローン控除
住宅ローン控除とは、年末調整で差し引かれた源泉所得税のうち、一定額が戻ってくる制度です。初年度に確定申告を行えば、2回目以降は年末調整で控除を受けられるようになります。
・寄付金控除(ふるさと納税含む)
寄附金控除とは、特定の団体(市区町村や赤十字など)に寄附をした場合に、寄附額から2,000円を引いた金額を所得税や住民税から控除できるという制度です。ふるさと納税もこの寄付金控除にあたります。利用条件など、くわしくは総務省のウェブサイトなどでご確認ください。
(総務省)
・雑損控除
自然災害のような予期せぬ被害により損害を受けた場合に、所得から控除できる制度です。
・特定支出控除
接待費や自費で支払った交通費など、仕事に関連する支払いが多い場合に控除できる制度です。還付要件がありますので、国税庁ウェブサイトなどで確認しましょう。
(国税庁)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/nencho2020/01.htm
2.生命保険料控除とは?
生命保険料控除とは、一年間の収入から払い込んだ生命保険料を一定額差し引くことで、所得税・住民税の負担軽減につながる仕組みです。 控除の種類は、一般生命保険料控除・介護医療保険料控除・個人年金保険料控除の3種類です。会社員や公務員の場合は、年末調整で申告することができます。
2-1.新制度・旧制度の計算方法
生命保険料控除には、新契約(平成24年1月1日以後に締結した保険契約)と旧契約(平成23年12月31日以前に締結した保険契約)があり、それぞれ生命保険料控除の取扱いが異なります。計算方法も変わりますので注意しましょう。
・新制度(平成24年1月1日以後に締結した保険契約)の計算方法
・旧制度(平成23年12月31日以前に締結した保険契約)の計算方法

新契約と旧契約の両方契約している場合は下記いずれかで申告します。
1.新制度で申告
「一般生命保険料」「個人年金保険料」「介護医療保険料」それぞれに適用され、あわせて12万円が限度となります。
2.旧制度で申告
「一般生命保険料」「個人年金保険料」それぞれに適用され、あわせて10万円が限度となります。
大きい金額となる生命保険料だけによる控除額を一般の生命保険料控除額とすることができますので、該当する制度をよく確認しましょう。
2-2.生命保険料控除申請をすると何が節税になるの?
生命保険料控除は、所得税・住民税が軽減される税制度です。
私たちが支払う所得税や住民税は、所得から給与所得控除を差し引き、さらに個人の事情に応じた所得控除を差し引いた課税所得に対して課税されます。
つまり、所得が減れば支払う税金が減ることになります。
生命保険や医療保険、介護保険、個人年金保険に加入するということは、国の医療費負担や介護費用などの負担軽減につながります。 つまり、自ら保険加入してリスクに備えている人についてはそれらを考慮して税負担を軽くします、という仕組みです。
具体的な計算方法は下記のとおりです。
生命保険料控除金額×所得税率=還付金額
生命保険料控除金額は先にお伝えしたとおり計算します。 所得税率は以下のようになっています。
たとえば、生命保険料控除金額が5万円で給与所得が500万円の場合は、税率20%なので、5万円×20%となり、1万円還付されることになります。
なお、年末調整で所得税による生命保険料控除申請を行えば、住民税の申請は行う必要はありません。
3.生命保険料控除の控除区分には何がある?
生命保険料控除の控除区分は、一般・介護医療・個人年金の3種類がありますので、区分ごとに解説していきます。
3-1.一般生命保険料
生存または死亡に起因して、一定額の保険金、その他給付金が支払われる保険が対象です。保険金の受取人は、契約者本人・配偶者・その他親族(6親等以内の血族と3親等以内の姻族)である必要があります。終身保険や養老保険、定期保険、学資保険などが該当します。
3-2.介護医療保険料
新制度のみ適用になる控除区分です。
疾病や身体の障害などにより、一定額の保険金、その他給付金が支払われる保険が対象です。医療保険やがん保険、介護保険などが該当します。
3-3.個人年金保険料
個人年金保険が対象です。ただし、個人年金保険料税制適格特約を付けている必要があり、条件は下記のとおりです。
<個人年金保険の生命保険料控除条件>
1. 年金の受取人は、契約者または契約者の配偶者となっている契約であること。
2. 保険料等は、年金の支払いを受けるまでに10年以上の期間にわたり定期に支払う契約であること。
3. 年金の支払いは、年金受取人の年齢が原則として満60歳になってから支払うとされている10年以上の定期または、終身の年金であること。
自分が加入している個人年金保険が控除対象かは、保険会社へ問い合わせるか、控除証明書で確認しましょう。
4.生命保険料控除の申請方法
会社員や公務員は、年末調整で生命保険料控除申請は行うのが基本です。次に申請方法や必要書類を解説していきます。
4-1.生命保険料控除申請はどうやって行うの?
年末が近くなると、会社から年末調整書類が一人一人に配布されますので、その申告書類に必要事項を記載し、会社へ提出します。
その際、加入保険会社から送られる生命保険料控除証明書の添付が必要になりますので、手元に用意しておきましょう。
控除証明書があれば、そこに記載されている金額を転記するだけです。
4-2.必要書類は?
加入保険会社から10月ごろに郵送で送られる「生命保険料控除証明書」が必要です。
ここに書かれた保険料などを書類に書くことになりますので、大事に保管しましょう。
万が一紛失してしまった場合は、再発行ができますので、早めに加入している保険会社へ連絡しましょう。
控除証明書がないと生命保険料控除申告ができませんので、11月中旬くらいには、すべての加入している保険会社の控除証明書がそろっているか確認しておきましょう。
5.年末調整で生命保険料控除申請をし忘れたら?
「生命保険料控除証明書が見当たらなかった」「保険加入していることを忘れていた」などの理由で、万が一年末調整をし忘れた場合も、あきらめてはいけません。
他の申請方法がありますので、知っておきましょう。
5-1.年末調整を忘れても生命保険料控除が受けられる!?
年末調整で生命保険料控除申請を忘れた場合は、確定申告を自分で行いましょう。
勤務先の会社から源泉徴収票を受け取り、それを元に確定申告を行います。確定申告ができれば年末調整を行った場合と同じように控除が受けられます。
なお、年末調整は、各会社で定めた提出期限に従い書類提出するのが原則ですが、税務処理上は、翌年の1月31日までは年末調整で生命保険料控除が行えます。
もしも、それまでに忘れたことに気づいた場合は、一度会社側にも相談してみましょう。
5-2.確定申告で生命保険料控除を受けるには?
何らかの理由で、年末調整ではなく確定申告を自分で行う場合は、税務署が用意する所定の確定申告用紙に必要事項を記入し、提出します。
申告用紙は色々ありますが、会社員が生命保険料控除申請を行う場合は、「確定申告書A」を使用します。確定申告でも生命保険料控除証明書は必要なので忘れず添付します。
確定申告の期限は、毎年3月15日です。(令和2年においては新型コロナウイルスの影響で4月15日まで期限延長されました)
なお、その年の確定申告に間に合わなかった場合でも、5年以内に「所得税の校正請求」を行うと、生命保険料控除を受けることができます。年末調整か確定申告で申請するのが原則ですが、覚えておいて損はありません。
まとめ
ややこしく感じる年末調整での生命保険料控除申請。しかし、申請自体はとても簡単です。
なにより、漏れなく申請することが大切ですので、保険加入状況をしっかり把握しておきましょう。
また、この時期は、保険契約を見直すいいチャンスです。加入保険会社だけでなく、保険内容の見直しも行い、いざという時に困らないようにしておきましょう。