個人年金保険とは、国民年金や厚生年金など公的年金だけでは老後の生活費が足りなくなる恐れがある方や、年金受給前に退職予定の方などが、将来に備えるために加入する私的年金の一つです。
近年では、公的年金の受け取り開始年齢が段階的に引き上げられている背景もあり、早いうちから老後資金を個人としても蓄えておくことが必要とされています。
今回は、個人年金保険の種類や加入のメリット・デメリットまで解説していきますので参考にしてください。
目次
1.個人年金保険とは?
個人年金保険とは、公的年金で不足する分の老後資金を個人で蓄えるための保険で、生命保険に分類されます。
一定期間保険料を支払うことで、契約時に決めた時期になると保険金(年金)の受け取りを開始することができます。
保険種類によっては、年金としてではなく一時金として保険金の受け取りができるものもあります。
平均寿命が延びる一方で、少子高齢化が進む日本は、老後資金を子どもや家族に頼ることが難しくなっている社会背景がありますので、働いていられるうちに老後資金を自ら貯めておくことが大切です。
その時に役立つのが個人年金保険です。
受け取れる保険金は払込期間と月々の保険料により異なります。これは一般的な生命保険と同じ考え方です。
1-1.国民年金との違いは?
国民年金と個人年金保険は全くの別物です。
国民年金は、日本国内に住む20歳~60歳の人に加入が義務付けられている国の制度です。
自営業や農漁業を営む人は自ら納め、会社員など厚生年金保険や共済組合に加入している人は、加入している制度からまとめて国民年金に拠出金が支払われますので、別途自分で保険料を負担することはありません。
令和2年度の国民年金の月額保険料は16,540円(出典1)です。毎年度の保険料は、決まった保険料額に物価や賃金の伸びに合わせて調整され、決定します。
個人年金保険とは、老後の生活資金を積み立てる目的で民間保険会社が販売する任意保険です。
払込期間に保険料を納め、契約時に決めた受け取り期間が来ると、保険金(年金)の受け取りができる仕組みです。
国民の義務か任意加入かが決定的な違いです。
出典1)日本年金機構
https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo/20150313-02.html
1-2.加入検討したほうがいい人とは?
まず、公的年金の受給額を見ていきましょう。 令和2年度では、国民年金の受け取り年金月額は一人あたり月額65,141円(老齢基礎年金満額の場合)となっており、単純比較ではありませんが厚生年金は夫婦で220,724円(※)となっています。(専業主婦(主夫)の場合)
(※)賞与を含む月額換算給与43.9万円で40年間就業したと仮定した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金満額)の給付水準。
出典2)日本年金機構
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2020/20200401.html
同じように年金を払っているつもりでも、厚生年金に加入していた場合と、国民年金のみとでは、受給額にこんなに差があることをご存知でしたか? 参考までにこの前提をもとに、夫婦二人分の受給額がどれくらいになるのか、計算してみました。
<夫婦ともに自営業の場合>
夫:国民年金(第一号被保険者)のみ=一ヵ月あたり65,141円
妻:国民年金(第一号被保険者)のみ=一ヵ月あたり65,141円
夫婦合計=130,282円
<会社員と専業主婦の場合>
夫:厚生年金(国民年金第二号被保険者部分含む) =155,583円/月
妻:国民年金(第三号被保険者)=一ヵ月あたり65,141円
夫婦合計=220,724円
※専業主婦(主夫)は、直接的に年金保険料を納付する必要はありません。扶養者が加入する厚生年金などの保険者から集めた保険料の一部を、基礎年金拠出金として負担しているためです。
<会社員として夫婦共働きの場合>
夫:厚生年金(国民年金第二号被保険者部分含む) =155,583円/月
妻:厚生年金(国民年金第二号被保険者部分含む) =155,583円/月
夫婦合計=311,166円
単純計算で、共働き会社員と共働き自営業では、年金受給額に2倍以上の差が出てくることになります。
夫婦ともに自営業の場合の年金受給額は2人合わせて約13万円。(令和2年度の受給額より計算)60歳以上の夫婦では、毎月の生活費平均が26万円とも言われていますので、国民年金のみではかなり生活が苦しくなることが容易にわかります。
自営業の方は個人年金保険の加入検討は必ずしておいた方がいいでしょう。
出典3)一般財団法人 全国銀行協会
https://www.zenginkyo.or.jp/article/life/retirement/4385/
会社員と専業主婦の場合ではどうでしょうか。
老後の毎月の生活費が26万円、年金受給額が22万と仮定しましょう。
貯金があれば毎月なんとか生活できそうなイメージかもしれませんが、たとえば現役時代に夫婦で月43万円ぐらい稼いでいたとすると、この年金受給額ではかなり生活水準を下げなければいけないとも言えます。
そこに、どちらかの介護や病気治療などが重なったとしたら、ますます厳しい経済状況になるかもしれません。
このように、公的な年金だけに老後資金を頼っていると厳しくなる場合もありますので、老後資金としての個人年金保険加入は、どんなご家庭であっても検討しておいた方がいいでしょう。
1-3.個人年金保険の保険料と保険金
毎月の保険料はどの程度を設定するといくらの保険金(年金)が受け取れるのでしょうか?
保険会社により差異はありますが、受け取る保険金(年金総額)を1,000万円として、30年間で原資を積み立てると仮定した場合、月々の保険料は約25,000円です。(返戻率110%とする)
仮に総額1,000万円の年金を60歳~80歳までの20年間で受け取る場合、「1,000万円÷20年=50万円」つまり、公的年金の他に、一年間に50万円の上乗せができます。月額換算すると、毎月約4万円の上乗せです。
前項でご説明した通り、60歳以上夫婦が必要な毎月の生活費平均は26万円。会社員と専業主婦の場合の月平均受給額は22万円ですから、ちょうど不足分の4万円を補える計算になります。
しかし、個人年金保険だけで月々25,000円の支払いを30年間ずっと続けることができますか?
30歳から加入して60歳までと仮定すると、その間には、お子さんがいた場合は教育資金もかかりますので出費がかさみます。
まずは、自分と配偶者が受け取れる現時点での年金額を確認しておくとともに、フィナンシャルプランナーなど専門家に相談し、検討してもいいでしょう。
2.個人年金保険の種類
個人年金には、受取方法で4種類、運用方法で2種類あります。具体的には、次の通りです。
【受取方法】
終身年金、確定年金、有期年金、夫婦年金
【運用】
定額年金、変額年金
【運用型】×【受取方法】だけ保険種類はありますので、ご自身のライフプランにあわせて選択しましょう。
2-1.終身年金
終身年金は、被保険者が生きている限りずっと受け取ることができる保険です。
受け取り期限がないため、長生きするほど受け取り額が増えていきます。
万一、被保険者が早期に死亡した場合で、それまでの年金受給額が最低保証額に満たない場合は、残額をご家族が受け取れます。
2-2.確定年金
確定年金は、年金受け取り時期が10年20年と決まっている保険です。
例えば、「年金受け取り開始が60歳の10年確定年金」として契約した場合は、60歳~69歳までの10年間、年金が受け取れます。
万が一契約期間中に被保険者が亡くなった場合は、残りの保障期間に相当する年金もしくは、一時金をご家族が受け取ることができます。
2-3.有期年金
有期年金とは、あらかじめ決められた年齢から、10年20年などの一定期間、被保険者が生きている時にだけ年金の受け取りができます。
受け取り開始後に被保険者が死亡した時は、契約が終了します。
2-4.定額年金
定額年金とは、契約の段階で将来の年金額が決まっている保険です。
払い込んだ保険料は、契約時に保険会社が決めた予定利率で、保険会社が運用を行います。
運用の良し悪しに関わらず老後の受取金額が決まっているため、生活設計が立てやすいのが特徴ですが、反面、予定利率の低い時に契約すると思ったほどの運用益が見込めず、結果として割高になる場合もありますので、注意が必要です。
万が一被保険者が亡くなった場合は、死亡給付金が支払われるのが一般的です。
2-5.変額年金
変額年金とは、事前に定められた運用商品(投資信託など)から、契約者自らが資産運用先を選んで行う保険です。
払い込んだ保険料をうまく運用すれば、株価や金利の変動により払い込んだ保険料より多くの年金の受け取りが可能です。
しかし、資産運用によっては、保険金の受取額が少なくなる場合もありますので、運用知識が必要です。
万が一被保険者が亡くなった場合は、定額年金と同じく、死亡給付金が支払われるのが一般的です。
2-6.夫婦年金
夫婦年金とは、夫婦どちらかが生きているかぎり受け取れる、被保険者を2人とした保険です。
万が一どちらかが先に亡くなっても、残された配偶者の老後資金が確保できるのが安心です。
最初から夫婦年金として契約できる保険会社もありますが、一般的には確定年金などを最初に契約しておき、その後、夫婦年金へ変更します。
3.個人年金保険のメリット
老後資金としてだけでなく、他にも加入メリットが挙げられますので見ていきましょう。
3-1.条件を満たせば保険料控除が受けられる
個人年金保険は、生命保険料控除が受けられることがほとんどです。
生命保険料控除の条件の一つに「保険料払込期間が10年以上であること」がありますが、個人年金保険は何十年と保険料を払い込むことが一般的なので、その場合は生命保険控除対象になります。(他にも生命保険控除対象となる条件があります)
控除申請を行うことで、所得税・住民税の節税に繋がります。
たとえば所得税だと控除金額は次の通り計算します。(新制度の場合)
出典4)公益財団法人 生命保険文化センター
https://www.jili.or.jp/knows_learns/q_a/tax/tax_q16.html
なお、生命保険料控除には、新契約(平成24年1月1日以後に締結した保険契約)と旧契約(平成23年12月31日以前に締結した保険契約)があり、それぞれ生命保険料控除の取扱いが異なります。計算方法も変わりますので、国税庁のHPなども参考にしてください。
控除申請には、保険会社が発行する控除証明書が必要です。
毎年、10月~12月ごろ郵送で送られますのでしっかり保管して、年末調整や確定申告を行いましょう。
3-2.貯蓄が苦手でも老後資金が積み立てられる
老後の資金と言われてもピンとこないかもしれません。
特に、働き盛りの方やお子さんがいて教育費がかかる場合は、目の前にある支出をどうするかが最優先事項になるでしょう。
しかし、働けるうちに、老後資金をしっかり貯めておくことは経済的にも精神的にも安定につながります。
貯金が苦手な方は、保険料という形で強制的に貯められる個人年金保険に加入するのも一手です。
解約を除き、契約時に定めた期間にならないと年金受け取りができないため、確実に蓄えることができます。
4.個人年金保険のデメリット
個人年金保険はとてもシンプルな保障内容ですが、それでもデメリットはあります。
しっかりおさえておきましょう。
4-1.解約返戻金が少ない
個人年金保険に限りませんが、保険契約を途中解約すると払込保険料より解約返戻金の方が少ない場合がほとんどです。
そもそも老後の資金目的とした保険ですから、途中解約は保険加入の意味が見失われてしまいます。
そのようなことがないよう、契約時はよく検討し、場合によっては専門家に相談しながら、長期間支払える保険料を設定しましょう。
4-2.インフレに弱い?
個人年金保険の中でも、定額年金の場合は契約時に年金額を決めるため、インフレなどにより受取時の物価が大きく上昇していた場合は、当初見込んでいた老後資金が不足する恐れがあります。
一方、変額保険は、契約者の投資運用次第ではインフレに強いとも言える保険です。運用をうまく行い資金が増えればその分、保険金(年金)も増えます。
ただし、投資リスクは契約者個人にゆだねられています。
どのような種類に加入するかよく検討しましょう。
5.まとめ
いかがでしょうか。
国民年金制度の将来性になんとなく不安を覚えていても、個人年金保険の加入はしていない方がまだ多いのではないでしょうか。
国民年金制度は、今働いている人たちの年金保険料や税金を高齢者の年金支給にあてるものです。 そのため、少子化が進む今後は、現在の年金支給額より少なくなる可能性が大いにあります。
「あてにしていた国民年金が受け取れず老後の生活に困った」ということがないよう、個人年金保険の種類やそれぞれの特徴をしっかり理解して、老後資金を準備しましょう。