介護保険とは、「介護状態になった時にもらえる保険」です。
ただ、ひとくちに介護保険といっても、公的介護保険制度と民間の介護保険があり、その内容はかなり複雑です。
そこで、この記事では、介護の基礎知識として、介護状態の区分や、かかる費用、そして公的介護保険制度と民間保険会社の介護保険との違いを徹底解説していきます。
目次
1.そもそも介護状態って?
まず、そもそも「介護状態」とはどういう状態なのでしょうか?
介護保険法では、市町村が介護を必要とする方を身体の状態などに応じて区分するため、公的介護保険制度の基準として要支援または要介護というものを定めています。
要支援1、2から要介護1〜5までの7段階あり、数字が大きくなるほど要介護の度合いも重くなります。
つまり、要支援や要介護と認定される=介護(支援)が必要、ということですね。
1-1.健康寿命と平均余命
日本は世界屈指の長寿大国なのはご存知だと思います。
長寿=平均余命が長い、ということは喜ばしいことですが、それと並行して高齢化が進むという問題点も、今、日本が抱えている問題でもあります。
そして、介護保険を考えるに当たって、この平均余命と健康寿命の差という点は避けて通れない話なのです。
WHO(世界保健機構)が提唱する健康寿命は「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義されています。
つまり、平均余命から健康寿命を差し引いた期間が、介護の必要がある期間といえるのではないでしょうか。
参照元:厚生労働省HP
たとえばこの図のように、男性71歳から約9年間、女性の74歳から87歳までの約12年間、介護が必要になったと仮定すると、要介護状態になったのが65歳以上なので、公的介護保険制度は利用可能です。
では、介護への備えは必要ないのでしょうか?
2.公的介護保険制度って?
公的介護保険制度は、2000年(平成12年)に発足されました。
まだ新しい制度なんですね。
日本では、40歳以上になると公的介護保険への加入が義務付けられています。
公的介護保険の加入をするのが40歳以上なので、加入していない40歳未満は制度を利用することはできない、ということですね。
ただし、40〜64歳までの期間も、 「介護状態になった=公的介護保険制度が受けられる」 というわけではありません。
第一号被保険者である65歳以上の方と、 第二号被保険者である40〜64歳までの人には大きな違いがあるのです。
2-1.第一号、第二号被保険者って?
公的介護保険制度は、年齢によって第一号被保険者と第二号被保険者に区分されています。
65歳(第一号被保険者)になると介護保険被保険者証が郵送で届き、要介護状態になった原因を問わず、介護が必要であると認定されれば、介護保険を利用することができます。
しかし、40歳(第二号被保険者)になっても、介護保険料の納付が義務付けられますが、介護保険の被保険者証は手元に届きません。
老化が原因とされる以下の特定疾病により介護が必要になったと認められた場合のみ、介護保険を利用することができます。
そして、公的介護保険制度でカバーできる部分と、できない部分というのも存在します。
3.公的介護保険制度でカバーできるもの、できないもの
公的介護保険制度は、65歳以上の方にとってはすごく助かるサービスですよね。
ただし、この一見万能のように見える公的介護保険制度ですが、残念ながら介護にかかるすべてのものに使えるわけではありません。
では、どのようなサービスが利用可能対象なのでしょうか?
3-1.公的介護保険制度でカバーできるもの
まず、公的介護保険制度は主に以下の3つを保障してくれます。
- 「介護サービス費用」
- 「高額介護サービス費制度」
- 「高額介護合算療養費制度」
1つずつ説明していきましょう。
3-2.介護サービスを1割の自己負担(所得によっては2割または3割負担)で受けられる
介護が必要になった場合、お稽古ごとのように介護施設に通ったり(デイサービス、デイケア)、ヘルパーに自宅に来てもらったり(訪問ヘルパー)、介護施設に入所したりといったさまざまな「介護サービス」を受けることになります。
この際に公的介護保険制度を利用すると、原則的に介護サービス費用の自己負担は1割~3割で抑えられます。
残りの7割~9割は公的介護保険からそれぞれの施設などに支払われます。
ただし、要支援や要介護の区分によって月々の上限額が定められており、上限額を超えた部分に関しては、全額自己負担となります。
※地域によって異なる場合があるので、くわしくはケアマネジャーや、地域包括支援センターなどでご確認ください。
3-3.「高額介護サービス費制度」とは
基本的には先に述べたように介護サービスの自己負担は1~3割ですが、ホームに入所したりすると、その1~3割の自己負担でさえ高額になってしまうことがあります。
ところでみなさん、医療費の「高額療養費制度」はご存知でしょうか?
小さな子どもなど、医療費助成がある人を除き、年齢に関係なく月々の医療費が所得に応じた上限を超えた場合は免除される制度のことですが、この高額療養費制度と同様に自己負担が高額になった場合の軽減措置として設けられているのが「高額介護サービス費制度」です。
こちらも「高額療養費制度」と同様に、世帯や個人の収入に応じて介護サービスの上限が決まっており、上限を超えた部分に関しては「高額介護サービス費」として払い戻される、というのがこの制度です。
出典:「厚生労働省 高額介護サービス費の基準が変わります(周知用リーフレット)」から
3-4.「高額介護合算療養費制度」とは
公的介護保険制度などを利用しても1年の介護費用、医療費の自己負担が高額になった場合に利用できるのが「高額介護合算療養費制度」です。
毎年8月〜翌年7月までの1年間の介護費用、医療費を合算し、それぞれの限度額を超えた場合に払い戻してもらえる制度です。
ただし、この制度は 「同一世帯」での合算であり、上限額も収入に応じて変わる。 という点に注意が必要です。
3-5.公的介護保険制度でカバーできないものは?
公的介護保険制度は介護サービスを受ける時に非常に役立ってくれます。 しかし、カバーできない部分もあります。
主に 「介護サービスを受けない場合」と「64歳以下の方が介護状態になった時の費用」 に関して、公的介護保険制度は利用できません。
具体的には、
「介護サービスを受けない場合」
- 在宅介護でのオムツ代、介護用ベッド、防水シーツ、流動食の宅配などの日常生活費
- スロープや手すり、階段昇降機などを設置するリフォーム費
- 杖や車椅子などの購入費
- 通院やデイサービスへの行き来などの交通費(介護タクシー含む)
など
リフォームなど一時的な大きな費用から、オムツなど小さいけれど継続的に必要になる費用まで多種多様です。
これらの費用は全て、公的介護保険制度では賄えないのです。
そして先に述べたように、40歳~64歳の方は老化が原因とされる以下の特定疾病により介護が必要になったと認められた場合以外は、公的介護保険制度が利用できません。
つまり40〜64歳の第二号被保険者は、たとえ交通事故などで介護を必要とする状態になったとしても、公的介護保険制度を利用することはできないのです。 (※ただしこの場合、障害年金の対象となる可能性があります)
介護保険料は払っているのに、介護状態になっても公的介護保険制度を利用できないのは、少し複雑ですね。
そして40歳未満はいかなる理由であっても公的介護保険制度は利用できないため、さらなる注意が必要です。
なぜならば、若くして介護が必要となる=平均寿命までの期間が長い=介護を必要とする期間が長期化する可能性が高いからです。
4.介護費用はどれくらい用意すればいいの?
公的介護保険制度では、カバーできる部分とできない部分があることがわかりました。 では結局、介護費用はどのくらい準備しておけばいいのでしょうか?
出典元:生命保険文化センター/平成30年度「生命保険に関する全国実態調査
https://www.jili.or.jp/research/report/pdf/h30zenkoku/2018honshi_all.pdf
これは実際に介護を経験した方を対象にしたアンケートの結果です。
これによれば、月々の平均が7.8万円(公的介護保険の介護サービス費用の自己負担含む)。 介護にかかった期間は約4年7ヶ月(約55ヶ月)となっています。
平均的なデータを元に計算すると
7.8万×55ヶ月=429万円という金額が必要になります。
計算してみるとかなり大きな金額であることがわかりますね。
この数字はあくまで平均の数字であり、介護が必要な方、それぞれの状況に応じて金額は増減します。
状況によっては、この金額を捻出するのが難しい方もいらっしゃれば、問題ない方もいらっしゃると思います。
もし、難しいと考えられるようであれば、民間保険会社の介護保険など、備える必要があるでしょう。
4-1. 民間保険会社の介護保険はどう違うの?
公的介護保険制度と民間保険会社の介護保険の1番の違いは、年齢に定めがあるかないかというところです。
65歳以上、もしくは一定条件をクリアした40歳以上の方のみ受け取れるのが公的介護保険制度。
加入さえしていれば年齢に関わらず受け取れるのが民間保険会社の介護保険です(各保険会社によって加入できる年齢が3歳からや5歳から、など異なります)。
よく、介護は育児にたとえられます。
要介護3は生後10ヶ月と同じだけの介助が必要だとも言われています。
10ヶ月の、小さな赤ちゃんであっても、おむつを替え、離乳食を食べさせ、と大変ですよね。 では、そのまま身体だけが大人になったらどうでしょうか?
あなたは、ご主人や奥様がその状態になった時、今と同じ生活はできますか?仕事は続けていけるでしょうか?
もし難しいと感じられるのであれば、民間保険会社の介護保険など備えるというのも有効な手段のひとつではないでしょうか。
5.民間保険会社の介護保険 メリットデメリット
現在、日本では40を超える生命保険会社が存在します。
そして、その多くで介護保険と名の付くものは販売されています。
では、民間保険会社で介護保険に加入する場合、注意する点、また、選び方のポイントも併せてお伝えします。
5-1.民間保険会社のメリット
メリットとしては以下のようなものがあります。
- 年齢、介護状態になった理由に問わず給付が受けられる
- 現金での給付
- 収入が減った場合の補填となる
- 介護医療保険料控除の対象になる(上限あり)
まず、民間保険会社の最大のメリットは、加入さえしていれば年齢に関わらず、対象疾患以外でも給付が受けられる、という点です。
また、公的制度は介護の負担を軽減してくれる現物支給であるのに対し、民間保険会社は現金での給付のため、上記に挙げた公的制度でカバーされないもの、たとえば介護のためのリフォーム代など、どうしても現金で賄わなくてはいけないものに非常に有効です。
ちなみに給付には、「一時金タイプ」や年間〇〇万円ずつ受け取れるという「年金タイプ」、「一時金+年金タイプ」と分けられています。
さまざまな受け取り方があるので、家族の介護が必要になり、自身の収入が減った際の補填としても役立ちますね、
そして介護医療保険料控除の対象になる(上限あり)こともメリットとして挙げられます。
またこれらに備えられることが「経済的な安心が得られる」というメリットも生み出してくれます。
では逆に、デメリットはどういうものがあるのでしょうか。
5-2.民間保険会社のデメリット
デメリットは
- 別途保険料の負担がある
- 介護状態になったとしても給付要件に満たない場合、給付を受けられない
- 保障期間が有限の可能性がある
という点が挙げられます。
一番大きいのは、やはり別途保険料の負担があるということではないでしょうか。
40歳以上の方が強制加入になる公的介護保険制度とは別に、将来、介護状態になるかもしれないという「可能性」に対して支出しなくてはならない、という葛藤はあると思います。
また、介護のリスクが高くなるほど=年齢が上がるほど保険料は高くなっていきます。
もちろん、補償内容や年齢によって保険料は異なりますが、一定の金額を定期的に納めなければならない、という部分はデメリットの一つといえます
そして民間保険会社はそれぞれ 「給付要件」 というものを設けています。
給付要件とは「どういう状態になったら給付に該当するのか」という基準なのですが、この基準は各保険会社が決めているため内容にバラつきがあります。
公的介護保険に連動され「要介護2以上」と定めている保険会社もあれば、公的制度とは連動しておらず「ベッド上から一歩も動くことができない状態(公的制度の場合、要介護4~5に該当)」と定めている保険会社、また「当社指定の介護状態が〇ヶ月以上継続した場合」という保険会社もあります。
このことから加入する保険会社によっては自分が考えていたものと違う、介護状態になったのに給付要件に足りず給付を受けることができなかった、というケースも実際に発生してしまうのです。
つまり、A社とB社の介護保険に加入し介護状態になった、A社からは給付を受けることができたがB社からは受けられなかった、ということが起こり得る、ということです。
また、公的制度と連動している場合、契約者から見てわかりやすい反面、今後国が介護保険費用削減のため認定基準を変更した場合でも、それと連動してしまう=給付を受けにくくなってしまう、という部分にも注意しなくてはなりません。
そして、公的制度との大きな違いとして挙げられるのが、保障期間が定められているという点です。
民間保険会社の場合、その保障期間は「有期(一定期間または一定年齢まで)」または「終身(一生涯保障)」があります。 「有期」の場合、短期のものから「定年まで」や「80歳まで」など、比較的長期的ものがありますが、どこかで保障が切れてしまう可能性がある、というのもデメリットといえるでしょう。
5-3.民間保険会社の選び方
民間保険会社を選ぶ際には
- 自分が受け取りたい「介護状態」と合致しているか
- 給付要件は「公的制度連動」か「独自基準」か
- 給付は「一時金」か「年金」か「両方」か
- 保障期間は「有期」か「終身」か
- 保険金額(介護状態になった時に受け取れる金額)をいくらに設定するか
- 貯蓄性のあるものにするか、掛け捨てか
- 保険料は現在の生活を圧迫しないか
こういった内容をベースに考えていくとおのずと、自分のイメージに合った保険が思い浮かべられるかもしれません。
6.まとめ
今回お話ししたことは、データに基づくものではありますが、平均値でのお話も多かったと思います。
公的介護保険制度も民間保険会社も、介護保険に加入するということは保険料が発生する、ということです。
将来の介護が不安な方でも、だからといって現在の生活を疎かにしていいわけではありません。
現在ご加入の保険や、家族構成、ご職業なども踏まえて考えなければなりません。
ご自身の今、そして未来を守るため、一度プロに相談されることをお勧めします。